2019年12月25日水曜日

狩りバチの 卵からでる 毒ガスで カビを殺して 獲物を防腐

はい、もはやこのイベントのためのブログになってますね。今年もオモロい論文を紹介しようと思います。この記事は今年読んだ一番好きな論文2019学生版のエントリー記事として書かれました。紹介するのはこちら!ジャン!

ハチの卵から出る活性酸化窒素はカビを殺すためのもの

な、なんだってー!

卵。動くこともできないくせに、ガスなんか出しちゃう。しかもカビ菌を殺しちゃうらしい。強い。

ちなみにこの論文が載ったeLifeはエディターとのやりとり、査読者のコメントまで見ることができるという挑戦的な試みをしているオープンアクセス誌で、学生の僕にはなかなか勉強になります。しかもNatureやScienseにも負けず劣らずのキラリと光る面白い論文が載ったりするので目を離せません。

話が逸れてしまいましたが、早速中身を見ていきましょう。

1. 背景説明

今回の主役となった蜂、beewolf Philanthus triangulum狩りバチの仲間
そもそも狩りバチってなんぞ?となった人のために簡単な説明を。

狩りバチとは?

先にYouTube動画をどうぞ。今回の主役、beewolfちゃんです!(音声は英語ですが気にせずにどうぞ)

このように、社会性のあるミツバチやスズメバチとは違い、基本的に単独生活をします。ぼっち。お母さんのハチはまず地面に穴を掘って巣を作り、捕まえてきた獲物を巣に運び込みます。獲物はクモ、バッタ、ゴキブリと種によって様々。狩りバチと一口に言っても色々いるのですが、地面に巣穴を掘って、獲物を狩る性質からツチスガリ(土巣狩ってこと?)という和名があてられるようです。beewolf は厳密にはツチスガリの仲間ではないため、ネットでは「ツチスガリモドキ」と名前をつけているものもありましたが、ここでは獲物がミツバチであることからミツバチツチスガリと呼ぶことにしましょう!

さて、巣穴に獲物を運び込んだお母さん蜂は獲物に卵を産みつけると、どこかに飛び去ってしまいます。獲物と一緒に巣穴に残された卵は、孵ったらピクリとも動かない獲物をもぐもぐ食べて成長し、蛹(さなぎ)を経て成虫になります。成虫になったら巣穴から出て飛んでいきます。

さて、ひととおり狩りバチの生態がわかったところで疑問が…

なんで獲物腐らないん?

死体を常温で放置しておけば普通腐るのに、なぜかずっと新鮮な獲物。ゾンビかな?
麻酔しているから獲物は死なない状態で新鮮なまま、って高等スキルを持つ種もいますが、このツチスガリちゃんは違う模様。

というのも…卵をとりのぞくと獲物はカビだらけに!

右はツチスガリ卵ありのミツバチ、左は卵をとりのぞいたらカビだらけになっちゃったミツバチです。
わーもこもこ(棒)

もうこれはクロですね、卵怪しい!怪しすぎる…!

ここで研究者は気づきました。
ツチスガリの卵、なんか臭わね?
実験をいろいろやって、においの正体と獲物が腐らない秘密を探り当てたぜ!のがこの論文の内容になります。

2. 実験内容と結果

まずはミツバチにカビが生える割合を調べてみました。卵ありとなしで比較。



卵あると獲物のミツバチにカビが生えにくくなってますね。
ミツバチツチスガリの卵に防カビ効果が?

ってなわけで次は培地でテスト。いわゆるバイオアッセイってやつです。
培地の上にキャップをかぶせてカビが生えるかどうかを試してみました。


ビンゴ!ミツバチツチスガリの卵を貼り付けたキャップをかぶせるとカビが生えません。
ミツバチツチスガリの卵には防カビ効果があることがハッキリとしました。

では、この防カビ効果の正体は?
当初、「卵から刺激臭がする」と言われていたため、卵が発するガスが防カビ剤なのだろうと考えられていました。臭いから予想されるガスの正体は塩素、オゾン、二酸化窒素。さあ、どれだ?!

最有力は二酸化窒素NO2。理由は2つ。
1つ目は昆虫は卵の時、微量の一酸化窒素NOを胚発生時のシグナル伝達物質として作ることが知られているため。NO自体は無臭ですが、大気中に放出されたら、すぐ酸素と反応して刺激臭を持つNO2に変わります。
2つ目は、NOやNO2に防カビ効果があることが確かめられているからです。

以上の理由でミツバチツチスガリの卵はNOを放出、酸素と反応してNO2となり、NO2がカビを殺菌すると考えたのです。イメージこんな感じ。



じゃあ本当に一酸化窒素NOなのか?確かめてみました。
ここで登場するのが一酸化窒素に反応すると光を検出するチート技。蛍光プローブDAR4M-AMの登場です。これを卵が産み付けられたミツバチにぶっかけると…


光ってる〜〜〜!!!!てか卵めちゃ明るいですやん。一酸化窒素めっさ出てますやん。

他のハチとも比較してみました。

ミツバチツチスガリの卵すげえ…産卵後24時間経つとギラギラですね。他のハチもほんの少し一酸化窒素を作っていることがわかりますが、ミツバチツチスガリの圧勝です。ちなみにこの時、巣穴の中の一酸化窒素の濃度は1690±680 ppmまで上昇すると推定されるとのこと。大気中の二酸化炭素濃度が400ppmと言われますから、めちゃくちゃガス出しまくりなことが分かりますね!

さて一酸化窒素に防カビ効果があるのかってのも確認してみました。さっきの推定値をもとに、人為的に一酸化窒素濃度を1500ppmにしてみたところ

やはり一酸化窒素の作用によってミツバチにカビが生えるのが遅れるみたいですね。これではっきりしました。

ミツバチツチスガリの卵が作り出す一酸化窒素ガスは、カビの生育を遅らせる

タイトル回収!!!!

3、論文を読んだ感想

ここまでこの論文のミソとなる部分は紹介しました。論文は最後まで紹介しませんでしたが、個人的にすごいと思ったのは最後の方。この著者たち、なんと一酸化窒素合成をになう遺伝子を同定し、その発現場所や発現量まで調べちゃっているのです。遺伝子を同定すれば、進化的にどのような経緯で毒ガス発射スキルが獲得されたかも推測できます。オモロい生命現象を紹介する論文は数あれど、ここまで丁寧な仕事をした論文というのはなかなかないでしょう。見習いたいものです。

4、最後に

ハチの卵が防カビのガスを出すというのはまさに究極の保存技術ですね。人間だったら生肉が腐らないように冷凍保存や真空パックを利用するわけですが、ミツバチツチスガリはそうもいきません。獲物は常温保存。そりゃあの手この手で腐らない工夫をするでしょう。一酸化窒素や二酸化窒素は自動車の排気ガス成分なので、生肉を常温保存してみたい人、ミツバチを食べたい人は排気ガスをビニル袋にためて、中に食べ物を保管すれば常温でも大丈夫かもしれません(良い子はマネをしないように)。