2018年12月24日月曜日

毒遺伝子を失った毒ヘビのお話

この記事は今年読んだ一番好きな論文2018のエントリーとして書かれました

さて、いきなりですが動画をご覧ください(音あり推奨)4年ほど前、アメリカの国立公園でボランティアをやっていた時に撮影した動画です。

ここに写ってるのなんだかわかります?

ジーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

蝉の鳴き声じゃなく、ヘビが尻尾を激しく振ることで出す音。

これはガラガラヘビといい、日本に生息するマムシやハブと同じクサリヘビ科、もちろんコイツも毒蛇です。北米〜南米に分布するグループで尻尾を激しく揺らして音を鳴らします。しっぽの骨にヒミツがあって、空洞だから振ると赤ん坊のガラガラのような音をだせるのだとか(ガラガラというより時代劇の効果音っぽい)。
 音をこんなふうに鳴らしてくれればこっちも気づくのに、じっととぐろを巻いてうずくまっていれば、地面の色にとけこんで全く気づかない。

下の写真も、普段から鍛えていた野生の勘でなんとなく違和感を察知して、ヘビがいることに気がつき撮影したもの。危うく踏んづけるところだったよ危ねえぇぇ!!!この時は5人グループで散策中、先を行く2人は全く気づかずにスルーしていたという…沖縄のハブだったか毒ヘビは複数人で歩いていると「1人目で人を察知、2人目で攻撃準備、噛まれるのは3人目」と言われるので、もしも3人目の僕が気づいていなければ…恐ろしや恐ろしや。

そんなガラガラヘビの猛毒ですが、「毒の多様性と進化」に着目した、おもしろい論文が発表されました。毒の多様性?って思うかもしれないけれど、ネットを漁れば「最強の毒蛇は?」みたいな記事があるし、そういやマムシとハブで毒の強さが違うなんて話もあるし、種によって違うっぽい(そりゃそうか)。今回はその一つをご紹介。

Current Biology誌から2016年に出た
The Deep Origin and Recent Loss of Venom Toxin Genes in Rattlesnakes 
訳すと「ガラガラヘビの仲間におけるヘビ毒遺伝子の古い進化的起源と最近の喪失」となるでしょうか。

やってることはすごく真面目。ヘビ毒の多様性に注目して、ガラガラヘビの仲間何種類かを使い、毒の遺伝子の構造を調べ、ガラガラヘビの毒の進化に着目したという研究。
ここでは、ガラガラヘビの毒遺伝子の1つ、PLA2(ホスホリパーゼA2)の遺伝子群にターゲットを絞って詳しく調べています。

わかったこと1

PLA2遺伝子群は種によってことなり、同じ種でも構造・発現量にバリエーションがある。
3種のガラガラヘビ毒遺伝子PLA2遺伝子群の
構造&発現量比較(Fig1改変)


わかったこと2

PLA2遺伝子はクサリヘビ科で発展してきたけど、ガラガラヘビでは最近になって遺伝子の一部を無くしちゃった
いろんなガラガラヘビで比較。神経毒をもつ祖先から
神経毒を失ったものがうまれてきたことがわかる。(Fig2改変)
ガラガラヘビ以外も加えた系統樹。PLA2遺伝子の起源はかなり古く
ガラガラヘビでその一部が失われた(Fig5を改変)
ガラガラヘビの祖先における、PLA2遺伝子の進化メカニズム
…とまあ、大雑把にはこんな感じ。タイトルだけを見ると、え?!毒蛇なのに毒をなくしちゃったん???!!!と思ったんですが、ヘビの毒は複数の組み合わせ。PLA2の神経毒をなくしたところで、決して無毒ヘビになったわけではないことに注意したいですね。
ちなみに、このグループ、似たような切り口でガラガラヘビの出血毒についても研究しており、同じくCurrent Biology誌から2018年に論文を出しています

感想1

色や形が様々だったり、今回のようにいろんな毒を作り出したり…どうして生き物はこんなに多様なんだろう?どうやってこんなにもいろんな生き物が進化してきたのだろう?そんな、生物多様性と進化に着目した研究は古くからなされてきた割に、遺伝学レベルまで突っ込んだ研究は分類学や生態学と比べたら決して多いとは言えないのが現状という印象。とはいえ、解析技術の進歩と低価格化が進む今日のこと、少なくとも向こう10年ちょいは、今回紹介したようなアプローチの研究が動植物を問わず主流になることは間違いありません。

感想2

実のところ、今年読んだ中で、個人的におもしろいと思った論文は1930~80年の研究ばかりでした。そんなわけで2000年以降の論文選びには苦労しました。古い論文は結構フリーダムでネタが面白いものが多いのです。生き物系は特にそういうものが多いので、気が向けばぼちぼち紹介記事を書く…いや、僕自身の研究テーマになる、かも!乞うご期待。

感想3

しゅうろんやばーい

感想4
みなさんお気づきかもしれませんが、論文の内容云々より見て見て!ガラガラヘビすごくない?と言いたい放題の記事になっています

2017年12月19日火曜日

擬態の謎を3Dプリンターで解き明かせ!〜キノコを真似た花を咲かせて、ハエをおびき寄せる蘭「ドラキュラ」のお話 〜


初めまして、普段はラボに閉じこもって共生の分子生物学的な研究をしていますが、趣味がフィールドワークってこともあり、生態学よりの論文を読むことも多いです。
この投稿は、今年読んだ一番好きな論文のエントリーとして書かれました。

はじめに

今回紹介する論文のタイトルは『Disentangling visual and olfactory signals in mushroom‐mimicking Dracula orchids using realistic three‐dimensional printed flowers、日本語に訳すと「3Dプリントした本物そっくりな花を使って、キノコに擬態する蘭”ドラキュラ”の視覚と嗅覚シグナルを紐解く」。まず、この論文のテーマ「擬態」について少し説明しよう。

1、擬態について

 擬態とは何か?この記事を書くにあたり定義をちょっと調べてみたら、「信号発信者が信号受信者の関心を持つ信号を発することによって、信号受信者を騙す現象(日高敏隆、1983)」とあった。

なるほど、わからん

 定義だけ書いても実感がわかないので、有名どころで例を挙げてみよう。まずはコノハチョウ。

思ったより木の葉感ない瞬間かも(2015年、西表島にて筆者撮影)
 鮮やかな表の模様と違い、裏の模様は木の葉そのもの。だから、森の中で羽を閉じて止まっていると、騙された敵には気づかれない。つまり「コノハチョウは、樹木の葉に擬態している」と言える。ここで知って欲しいのは両者の関係。この擬態という関係において、真似をされる木の葉は「モデル」であり、真似をするコノハチョウは「ミミック」と呼ばれる

 擬態の例をもう一つ。黒と青の蝶3種の写真(USAケンタッキー州にて、2014年筆者撮影)。このうち、有毒なのは1種だけ。捕食者が毒のあるものを避けた結果、似た模様を持つ無毒の種も生き残る。この例の場合、模様を真似されたのは、一番上のアオジャコウアゲハで、こいつは有毒。一番下のトラフアゲハ♀と真ん中のアメリカアオイチモンジは真似をしてるだけの無毒蝶である。だから、「トラフアゲハとアメリカアオイチモンジは、アオジャコウアゲハに擬態している」のである。つまり、「モデル」はアオジャコウアゲハで「ミミック」がトラフアゲハ&アメリカアオイチモンジなのがお分りいただけよう※1。
羽を広げるアオジャコウアゲハとトラフアゲハ♂

アメリカアオイチモンジ

トラフアゲハ♀

2、ドラキュラ※2

 ここまでに述べた例は、動物の「敵に食われないようにするための擬態」だが、今回紹介するエクアドル森林内に生息するラン”ドラキュラDoracula”の場合はちょっと違って「花粉を運んでもらうための擬態」である。花粉を媒介してもらうためにキノコに擬態して、ハエを騙す。こういう擬態もあるのだ。ここでは、キノコが「モデル」でドラキュラDoraculaが「ミミック」だ。 

 ところでこのドラキュラDoracula、花の作りが特殊(下写真、論文Fig.1より転載)


花びらのように見える場所はがく(Calyx、真ん中のペロンとしたやつが本来の花びらで「唇弁(Labellum」という。ドラキュラDoraculaは、この唇弁がキノコの傘をひっくり返したような形をしていて、しかもそいつはキノコのような匂いがする。そういうわけでドラキュラの花粉媒介はキノコに集まるショウジョウバエが担っているに違いないと言われていたのだが、そのことが証明されたのは比較的最近のことだった。とはいえ、こんな奇妙な色と形までしていて、匂いだけがハエをおびき寄せるわけではなかろう。では、いったい何がショウジョウバエを誘引するのか?この研究の面白いところは、その点を深く突っ込んだことにあるのだが、手法もなかなかに面白いものとなっている。

3、実験内容と結果

ざっくり要約すれば以下の4つ。図の解像度が微妙(そして著作権的にも怪しいかもしれないので、後で消すかも)なので気になる方は本文片手に読み比べてみてください(オープンアクセス)

I, 本物の花を匂いだけor見た目だけにしてみる(Fig. 2より転載)


問い:匂いのしない花はどうなる?
実験:透明な袋を花に被せて、匂いをシャットダウン(Visual only)
結果:ショウジョウバエはほとんど来なくなる

問い:花を隠して匂いだけにすると?(Scent only)
実験:布袋を花に被せて、匂いしか漏れないようにする。
結果:ショウジョウバエはほとんど来なくなる
匂いか見た目、どっちか片方だとハエは寄って来なくなることがわかる。

II,人工花を作り、比較(Fig. 3より転載)
 ユニークなのはここから。この研究チームは、なんとDプリンターを使って複雑な花の形をそっくりそのまま再現したのである。著者の一人、所属は「Visual art」専攻。どうやら視覚芸術の人までチームに引っ張り込んで再現したらしい。この人たち本気だ!すげえ!んで、匂いも本物の花から有機溶媒で抽出し、塗布している。
実際の実験は、写真のように形だけ(緑色のcontrol)VS 形と色(Visual only)それに、有機溶媒だけ塗った人工花(Solvent only)VS匂い抽出成分入りの溶媒を塗った人工花(Visual+ Scent)で比較している。


結果は本物の花には及ばないものの、見た目と匂い、両方似せた人工花が一番ショウジョウバエが寄ってきていることがわかる。

III,本物と人工花のキメラ(本物の唇弁やがくとくっつけた人工花を作成)(Fig. 4より転載)
花のどこの部分が、ショウジョウバエをおびき寄せるのに必要なのかを、本物の花をバラして、人工花と合体させるという実験。


本物の唇弁labbelumをつけた花の集まりが良さげですね。

IV,模様や色のパターンを変えた人工花(Fig. 6より転載)
ちょっと変わった模様をしていることに着目し、人工花の斑紋パターンを赤白の斑点、赤と白の縞模様、白のみ、赤のみの4つで比較を行っている(positive controlになぜ斑紋を再現した人工花ではなく本物の花を用いたのかはわからないけれど)。


斑点模様だと集まりがやや良いようです。

あともういくつか実験やっているのだが、細々しているので省略※3

まとめ

ショウジョウバエは匂い+見た目の両方でドラキュラの花におびき寄せられる。匂いだけでなく、花の斑紋パターンも重要。

最後に:感想とか

 やっていることそのものは、擬態の原因となる要素を丁寧に検証していくという単純なものではあるけれど、その過程に「生息地に足を運ぶ」「寄ってくるハエを数える」「花の模型を作成し、そっくりに色付けする」その一つ一つに膨大な時間と労力※4がつぎ込まれているのが見て取れて、想像しただけでもすごいなあとため息が出る。記事では省略したが、匂い成分をGC-MSで解析するなど、分子レベルから生態系レベルを網羅した、まさしく現代の博物学、素晴らしいの一言。
 擬態というのは、精巧に作り上げられた生物の形が絡んでくるため、模型を作るなんてことはなかなか難しかったのだが、3Dプリンターの普及で一気に進むんじゃないかという気がする。今後、この分野の発展に期待!

おまけ

研究チームが、YouTubeに研究風景&ドラキュラその他エクアドル森林内の生き物動画を上げている。なんというか、めっちゃ楽しそう。エクアドル行きたい。ヘラクレスオオカブト欲しい。

※2: 見た目が仰々しいのでドラキュラって名前がついたのだとか
※3: 随分端折ったけど、要点書いてるので許して(><)
※4: 今回の論文紹介のきっかけは、著者Policha氏の講演を拝聴したことだったのだが、講演で「生息地へは車では入れなくて、ロバに乗っていった」という話をしていて、そこまでやんのかすげぇな!と思った次第。

あとがき


 ここまで書いてふと気づいたことがある。このラン、分類的には全然違うけど、日本に生えるウマノスズクサ科のカンアオイによく似てませんかね?3方向に伸びるがく、控えめにひっそりと咲く花、送受粉に携わっているのはキノコ食のハエってめちゃくちゃ似てんじゃねえか!!!誰か3Dプリンター使ってカンアオイ擬態の研究やってみませんか?(完)